2021 サークリングレイブン選手権【女子下部ツアー】

日本の女子プロゴルフにも下部ツアーというのがありますね。レギュラーツアーに対してステップアップツアーと呼ばれているかと思います。駆け出しのプロや、シードを逃した選手などが、レギュラーツアーメンバー入りを目指して精進する機会を提供しています。

アメリカのLPGAにも下部ツアーなるものがあり、現在はメインスポンサーの保険会社の名前から「シメトラツアー」(Symetra Tour) と呼ばれています。日本のQT(Qualifying Tournament)に相当する Q-スクールの上位者が出場権を得られるツアーです。もちろん Q-スクール最終戦である Q-シリーズで上位に食い込めば翌年のLPGAレギュラーツアートーナメント出場の優先権を得られます。

そのシメトラツアーの新規大会「サークリングレイブン選手権(Circling Raven Championship: 賞金総額20万ドル)」が、ボクの住む街からギリ自家用車で日帰り往復可能なゴルフ場=サークリングレイブンゴルフクラブで開催されることになりました。女子下部ツアーの試合は見たことがないどころか、テレビ/ネットでも全く中継されないので一体どんな風に運営されているのか全く見当すらつきません。レギュラーツアーですら人気は怪しい女子の大会ですから、ロープの外側はギャラリーですし詰め、というのは少なくとも期待してませんでしたが・・・。

Road to Circling Raven

大会公式ページに駐車場情報がなかったのでメールで大会事務局に直接問い合わせて教えていただいたとおり、リゾート併設の無料パーキングスペースに駐車しました。受付嬢一人以外誰もいない仮設テントで一日当日券5ドルを支払います。いまどき電子マネーが使えず現金オンリーってなかなかイケてるなぁとか思いましたが、チケットの半券、大会パンフレット、そしてペアリング表まで頂きました。入場料の割にこれは至れり尽くせりではないですか?

アイダホとワシントンの州境という偏狭な地に位置するカジノとホテルの併設ゴルフリゾートではありますが、コースのメンテはとても良いように見受けられました。トーナメントに向けて特別なことをしたわけではなく普段からこうなんでしょうね。パブリックコースなのでホテル宿泊客に限らず普段は誰でもリーズナブルな料金でプレーできるようです。

大会ギャラリー、ボランティア用に仮設トイレが4つだけありました。また手書きのボードで参加選手全員のスコアを逐次確認することができます。

ギャラリースタンドなどというブルジョアな施設はもちろんありません。というか選手と観客の間にギャラリーロープすらありません。お客さんは自分の判断で選手といい感じの距離を保ってください、ってなわけですな。「お静かに」というボードを掲げたボランティアもいないので、自発的な大人の対応が求められますね。

1番と10番のティーグラウンドにはスターターこそいるものの、コールする選手の名前をとにかくよく噛む。w 海外の選手が増えており、かつ無名選手ばかりなので仕方がないといえば仕方がない。

9番と18番のグリーンサイドにはスコアカード提出テントがあります。テントといっても普通の日除け用で、特にギャラリーや関係者の視界を遮るものは何もありません。長机と簡易椅子がプレーヤー3人分あるだけです。

コースに出てみると、先ほども言いましたがコンディションが素晴らしいです。雄大かつ起伏のある地形を活かし、かつ木々でセパレートされたコースレイアウトは、特定の選手を18ホール付いてまわりたいギャラリーにはなかなか酷なセッティングだなという印象です。w  実際歩き回るとあっという間に疲れました!

グリーンのピン位置などはレギュラーツアーと比較するとちょっと易しめの印象を受けました。スピードもそこまで速くないかも。

やはり目を引くのはゴルフバッグを自分で運んでいるプレイヤーが多いことでしょうか。学生の試合などでは当たり前の光景のようですが、キャディーなしはプロゴルファーにも散見されます。日本の下部ツアーでもこれが日常の光景なのでしょうか。なおボク自身も普段はゴルフバッグを背負って歩きまわっているため彼女らには猛烈にシンパシーを感じます。

といった雰囲気で、入場料が安いかわりに設備は最小限、プレイヤーのラウンドスタイルも質素倹約、というのが女子下部ツアーの印象ですね。

パナラット・サナポルブーンヤラス

無名ばかりとはいえ、お目当ての選手がいないわけではありません。

一昨年ぐらいまで女子の大会を観に行くたびにこのブログでフィーチャーしていたパナラット・サナポルブーンヤラス選手。数年前から西のネリー・コルダ、東のパナラット・サナポルブーンヤラスと期待の女子選手を位置付けて来ました。順調に世界一にまで登りつめたアメリカのコルダ妹に対し、タイ出身のパナラットはレギュラーツアーのシード確保もならず出場試合も昨今では限定的。

しかしこの週に限っては、全英女子オープンから大陸移動したその足でこのアイダホの会場に急行したとのことで、練習ラウンドなしのほぼぶっつけ本番でこの大会初日を迎えたそうです。コースに関する知識もないままキャディーもつけず手押しカート利用のぼっちゴルフでは、道理で手元のヤーデージブックを眺めている時間も長くなるわけです。

極めてゼロに近い数のギャラリーの中で、選手の後を追いかけ、写真を撮り、声をかける私の姿が目に留まり、「彼女はあなたの娘さん?(Is she your daughter?)」と前半9ホールの間に3回も聞かれました。スコア記録のボランティア、ギャラリーのおばさん、同伴競技者のキャディーさんの3人です。

まぁ確かに年齢差的には親子というのもかなり現実的な線ですし、人種的に二人ともアジア人ですが、彼女のオヤジだったらきっとボクはもっとイケメンのはずです。もしくはヨメさんがもっと美人じゃないとこんな子は生まれません。

同伴競技者のキャディーさんとはこの質問をきっかけにいろいろなお話をさせてもらいました。ラウンド中に選手関係者とこんなくだらない会話をしてもオッケーなんだ、という新しい学びがありましたw  パナラット選手とも(あまりお勧めはできませんけど)移動中に二言三言お話させてもらいました。

本人にも言わせてもらいましたがドライバーの調子がすこぶる良く、バーディーも量産して初日2位タイという、下部ツアーではレべチであることを証明してくれました。

ビアンカ・パグダンガナン

もうひとりの注目選手がフィリピンのビアンカ・パグダンガナン選手です。夢だった自国代表のオリンピアンとして笹生優花選手と東京五輪に参加しました。最終日にスコアを崩して出場60名中43位タイという悔しい結果に終わりましたが、アリヤ・ジュタヌガーンに次いでアジア最強の飛ばしを誇るビアンカはここから上昇していくのみです。

LPGA公式記録で平均280ヤードを超えるドライバーディスタンス。同伴競技者すべてを数十ヤード置いていく驚異の破壊力。

そのくせ体型はごくごく普通の女の子。プロゴルファーにしてはむしろ細身で小さいと言っていいかもしれません。地面反力を最大限に利用しているものの、特にパワフルと呼べるほど力を込めて振っている印象もなく、どうやってこんなに飛距離を稼げているんだろうと不思議に感じるほどです。

余談ですがLPGA 公式サイト情報によると、ビアンカは大会会場に近いゴンザガ大学(=NBA八村塁の出身校)に在籍したことがあり、おそらくこのコースも何度もラウンドしているはずです。

アリゾナ大学に転校し卒業年の2019年Q-スクールでアメリカツアーカードを取得。優先順位が低かったためレギュラーツアーフル参戦とはならず、週によってはシメトラツアーに出場しているようです。

最後に大会終了から5か月後のさらなる余談ですけど、2021年12月のQ-シリーズ4日目に、ビアンカ・パグダンカナン選手は渋野日向子選手と、本大会優勝のチェン・ペイユン選手は古江彩佳選手と、それぞれ同組になりました。w