【リシャッフルの真実】LPGA日本人13選手はどの大会に出られるのか(前編)

なぜ、リシャッフルにこだわるのか?

今年2025年2月8日の日刊ゲンダイDIGITALの記事から https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/sports/367472

これから5月にかけて類似した内容を日々を追うごとに目にする機会が増えると思います

『昨年は吉田が2回のリシャッフルをいずれも突破できず、16試合の出場にとどまり、ポイントランク102位」

なんとなくそんな理解の方々が多いのではないでしょうか。確かに吉田優利選手は初めてのLPGAツアーで、トップランカーほどの試合数は確保できませんでした。でも16試合の出場にとどまったのは、本当にリシャッフルが原因なのでしょうかね? リシャッフルが原因で出場できなかった試合って具体的にどの大会なのでしょうね?


去年2024年8月2日のALBA.net の記事から


同じく吉田優利選手で、第二回リシャッフル前の最後の試合となったポートランドクラシックで予選落ちした時の取材記事ですね。https://www.alba.co.jp/articles/category/tour/lpga/post/sdoyjrtc9/?view=full

「シード選手と同等の出場試合数が得られるランキング80位以内を目指す吉田(現在のポイントランキングは121位)にとってはまさに“正念場”だったが、突破はならなかった」

「8月29日に行われるFM選手権にエントリーはしているが、出場権が降りてくるかは未定。今後は限定的な出場数の中で来季のシード権獲得を目指していく」

結果から言うと、FM選手権の出場権は無事に降りてきましたし、その次のクローガーも降りてきましたし、次の次のウォルマートも降りてきました。突破できなかったというリシャッフル、その影響下にある全ての試合の出場権が降りてきました。でも全体で見ると16試合という、ここで言う「限定的な出場数」にとどまったことは事実です。認識の乖離はどこで生じているのでしょうか?


2025年3月5日付のGDOの配信記事によると、ブルーベイLPGA出場の馬場咲希選手がこんなことを言っていたそうです。https://news.golfdigest.co.jp/news/lpga/article/177472/1

「このあとリシャッフルがあるので、クリアして、後半戦に出場できる試合があるように頑張りたい」

リシャッフルのクリアってなんでしょうかね? 80位のことですか? でもリシャッフル時に80位突破できなかった吉田優利選手は、後半戦でリシャッフル影響下にあった試合全てに出場できていましたんね。

紹介した記事はほんの一部なんですが、まとめるとこのような疑問が出てきます

  • リシャッフルが影響する試合と影響しない試合がある?
  • ランキング80位ってなに? 入れないと実際どうなる?
  • より多くの試合に出場するためには?

特にゴルフメディアは春と夏に決まってリシャッフル、80位、リシャッフル、80位と、リシャッフル煽りするんですけど、リシャッフル後の結果と事実を加えることで少し深掘りできればと思います

リシャッフルを理解するための基礎知識

意外に、LPGAポイントランキング制度とかプライオリティリストのことをあまり知らずに、リシャッフルの話をしちゃっている人が多いかもしれません

マッチプレーやツアー最終戦、アジアでの開催試合のような40名から80名前後という例外を除いて、LPGAの大会出場枠は1試合あたり120名から156名ほどです。多くの場合、スポンサー招待枠とマンデー予選会通過者などが含まれてますから、大雑把にいうと110名から150名ほどの出場枠を巡ってツアープロが凌ぎを削っているわけですね。

この110名から150名の出場選手を決める指標が主に3つ:ロレックス世界ランキング、LPGA CMEポイントランキング、そしてLPGA出場優先リストです


ロレックス世界ランキング(Rolex World Ranking)


ロレックス世界ランキングは世界中の女子ゴルファーのパフォーマンスを評価するためのランキングシステムです。過去2年間(104週)の試合結果を反映して毎週更新。対象試合は、LPGA、欧州ツアーだけでなく、下部ツアーや日本ツアー、韓国ツアー、中国ツアーなども含まれています。詳細な計算式は公にされていないのですが、大会のレベルによって獲得ポイントが変動して、その中でもメジャー大会は特にポイントが高いです。ここでは簡単に世界ランクと呼びたいと思います。


CMEポイントランキング (Race to CME Globe)

LPGAのCMEポイントランキング、英語ではRace to CME Globe と言いまして、日本語だとCMEポイントと言ったりCMEランキング、CMEランク等々色んな呼ばれ方をしています。ここでは単純にCMEランクと呼ばせてください。

LPGAの年間を通じた活躍を評価するポイントランキングで、LPGAの大会の最終順位に応じてポイントが加算されます。世界ランクと違って、LPGAだけが対象。年間ランキングである点も世界ランクとは異なります。

LPGA公式サイトにあるように、ノンメジャーの通常の大会では優勝者に500ポイント加算。2位以下順位に応じたポイントを獲得します。メジャー大会では通常の試合よりも多くのポイントが付与されます。


出場優先順位リスト (Priority List)

最後に出場優先順位リスト、英語では Priority Listと言いますが、CMEランクとともに、LPGA各試合の出場者を決める指標の一つです。

順位を決める要素としては、メジャーやLPGA大会の優勝経験、生涯獲得賞金、下部ツアーのポイントランク、予選会の結果などがあって、前述したCMEランクも重要な要素です。

選手はカテゴリごとに整理されていて、上から振られている通し番号が各選手の出場優先順位です。リシャッフルはこの出場優先順位が下位の選手に対して行われます。


これが今年度のシーズン開幕前、2025年1月17日に公開された優先順位リストで、日本人選手に関係するカテゴリのみ抜粋しています。

  • 最上位のカテゴリ1は昨シーズンのCMEランク80位以内。出場優先順位が93位まであるのは、産休や公傷制度利用者を含むためです。このカテゴリ1にいる日本人選手は5人
  • カテゴリ7は昨シーズンのノンメンバー優勝者。TOTO優勝の竹田選手は優勝時ツアーメンバーではなかったためこのカテゴリ
  • カテゴリ8はリシャッフル時の最新CMEランク80位以内。まだリシャッフル前なので該当者なし
  • カテゴリ9は下部エプソンツアーの昨年の最終ポイントランク10位以内
  • カテゴリ11が昨シーズンのCMEランク81位から100位まで。昨年、渋野選手がいたカテゴリ
  • カテゴリ14はリシャッフル時にCMEランク80位に入れなかった選手たち。これもリシャッフル前なので該当者なし
  • カテゴリ15が昨年12月の最終予選会25位以内の選手で、日本から5人。トップ通過の山下選手が出場優先順位140位、2位通過の岩井千怜選手が141位と続き、24位通過の馬場選手は163位
  • カテゴリ16はCMEランク101位から125位と、エプソンツアーポイントランク11位から15位が割り当てられます。ここに稲見萌寧選手がいて出場優先順位は169位

このプライオリティリスト=出場優先順位リストの上位から出場者が決まっていきます。ただ、全ての試合で使われるわけじゃないんですよ。

大会一覧に、出場者の半分以上が出場優先順位リストで決まる試合に◯を付けました。

全32試合中19試合。全体の59%=6割弱です。

残りの41%=4割強の試合では出場優先順位リストを部分的に使ってるか、もしくは全く使っていません。

例えば、後で詳しく説明しますが、全米女子オープンその他メジャー大会の出場者は主に世界ランクと最新CMEランクで決められていて、終盤のアジアンスイング以降はCMEランクのみで決まります。出場優先順位リストの最上位のカテゴリ1はあくまでも昨年のCMEランク上位者ですから、今実力のある選手を選ぶなら今季の最新CMEランク上位者を出場させた方がいいですもんね。


年間6割弱の試合でしか優先順位リストは使われていないというのが大事な点です。リシャッフルって優先順位リストの順位を入れ替えるわけですから、リシャッフルの影響を受ける大会は多くないということです。

24年リシャッフルと実際の出場機会

思ったほど多くないリシャッフル対象試合。実際のリシャッフル対象選手は出られたのか出られなかったのか。

まず昨シーズン2024年、リシャッフル前後での出場優先順位リストの推移を見てみましょう。あくまでも日本人選手にフォーカスした簡易版です。

まずはリシャッフル前、2024年1月27日発行のリスト。

カテゴリ11に渋野、カテゴリ14に最終予選会を通過した西郷、吉田2選手がいました。

この時点で渋野選手は出場優先順位119位、西郷選手は138位、吉田選手は145位。

なお、外国人選手を一人追加させてください。カテゴリ14で優先順位146位だった、レティシア・ベックです。中東イスラエル初のプロゴルファーです。

で、肝心のリシャッフルですが、カテゴリ8以下の選手が対象です。出場優先順位108位以下のプロたち、渋野、西郷、吉田選手、そしてベックがリシャッフル対象。カテゴリ8より上の上位者は忘れてください。対象外です。


通常シーズン2回、5月と7月終わり、または5月と8月にリシャッフルが実施されます。


2024年シーズンも第一回目のリシャッフルを5月に実施。

最新CMEランクで全体の80位以内に入った西郷選手がカテゴリ8へジャンプアップしました。カテゴリ8の出場優先順位が104位から115位ですから、りシャッフル対象選手中、12名がCMEランク80位以内に入ったということですね。この12人が日本のゴルフメディアが言ういわゆる「リシャッフルを突破した」選手ということになるのでしょう。

12名がカテゴリが8に上がったことによって、その下のカテゴリ9以下の出場優先順位は下がりました。しかし全員が12ランクそのまま下がるわけではありません。当然自分よりも優先順位上位の選手が抜けてカテゴリ8に移動する場合も多くありますから、カテゴリ9以下の選手の順位はそこまで大きく変わりません。例えば渋野選手は119位から125位への6ランクダウンで済んでいます。

吉田選手はCMEランク80位入りは逃したものの、小さいながらもポイントを稼いでCMEランク入りしました。従って今季CMEランク81位以下のカテゴリ13へアップ。ただ、CMEランク入り約40名強の中の下位に沈んでしまったため、優先順位は164位。リシャッフル前の145位から19ランクダウンしてしまいました。渋野さんもそうでしたが、吉田選手は日本のゴルフメディア曰く「リシャッフルを突破できなかった」選手で、「リシャッフル突破できず、今後の出場が限定的」となるはずだったわけです。

そしてレティシア・ベック。リシャッフル前の試合ですべて予選落ちしてしまい、カテゴリ14にいた20名強のうち唯一獲得ポイントがゼロ。CMEランク入りすることができず、カテゴリ14据え置き。優先順位は26ランクダウンして172位に。彼女もいわゆる「リシャッフルを突破できなかった」選手です。それも彼らからすれば、今後の出場は限定的も限定的といったところでしょうね。


では、吉田選手とレティシア・ベックがリシャッフル後にどの大会に出場できたのか、その2選手にのみ注目して見てみましょう。

まずお見せするのは第一回リシャッフル後の2024年LPGAトーナメント一覧です。ついでに第二回リシャッフル以降の試合も追加しました。

出場選手が、(リシャッフル後の)出場優先順位で決まる大会をここでも◯で示してあります。

ではどの試合に出場できたでしょうか。報道曰く「リシャッフル突破できなかった」ひとり、吉田優利選手。

はい、◯をした、リシャッフルで優先順位が下がった大会、すべてに出場できました。もう一度言うと、リシャッフルで優先順位が下がった大会にはすべて出場できました。つまり「リシャッフル突破できず出場が限定的になった」のではなく、「リシャッフルは出場権獲得に影響なかった」のです。

なぜ全て出場権が降りてきたのか? 大きな要因はノンメジャーの大会は欠場者が多い、ということです。例えばショップライトなんかは、産休を除いても、出場資格を持つ選手のうち、40から50人が大会エントリーをしなかったようです。日本国内JLPGAの試合では考えられないですよね。144人枠の大会に優先順位164位の選手が出られるのは、はっきり言って欠場者の多さゆえです。特にCMEランクに余裕がある場合、欠場してオープンウィークにして休息に当てる選手もいますが、この時期になるとJLPGA、KLPGA、欧州ツアーなど、海外選手の地元大会への出場機会が増えるのも欠場の要因の一つでしょうか。

逆に言うと、彼らは他の試合は休んでもメジャーの試合は確実に取りにきます。

吉田選手はそのメジャー5試合のうち1試合にしか出場できませんでした。

メジャー含む各試合の主な出場資格を表に追加すると、吉田選手は、リシャッフル関係のない全米女子オープンは地区予選会をトップ合格して出場権を得ました。

しかし全米女子オープンと同様に、主に世界ランク、最新CMEランクで決まる他のメジャー大会は、各大会のエントリー期限までに必要な最新CMEランクを獲得できず、出場できませんでした。全米女子プロなどは会場の練習場でウェイティングしていましたが、出場権が降りてくることはありませんでした。

先述したように、メジャー大会はCMEポイントも世界ランクの配点も大きいです。CMEランクを数ポイント余計に稼ぎ、CMEランクを数ランクだけ上げられていれば全米女子プロに出場でき、もし決勝ラウンドに進んでさらにCMEランクを上げられたら、エビアン、スコティッシュといった後の大会の出場も見えていたので勿体なかったと思います。

第二回リシャッフル前後でCMEランクは少し上昇したものの、ビュイック上海から始まった出場枠の小さいアジアンスイング参戦には程遠く、吉田選手は4試合全て出場できず。

ちなみにアジアンスイングのエントリー締切はFM選手権終了時でした。従って、後半の吉田選手にとって重要なマイルストーンは第二回リシャッフルではなく、FM選手権だったわけです。FM選手権終了時点で80位とは言わないまでも、CMEランク86位に入っていれば、少なくとも上海、韓国、マレーシアの3試合には出場できていました。

といったように、リシャッフル突破に失敗しても、リシャッフル影響下の大会には全て出場できたわけですから、リシャッフル、リシャッフル、とリシャッフルを突破した、突破できなかった、というのは関係ないですよね。それよりも特に配点の高いメジャー大会や、予選落ちがなくポイント獲得が保証されているアジアンスイングなど、個々の大会のエントリー期限やそこまでに必要な出場資格にもっとフォーカスすべきではないかと思います。

もちろんそんなことはすでに選手と関係者は分かっているでしょう。単に報道が少ないだけですよねきっと。

ついでに言うと、英語メディアでリシャッフル関連の記事は見たことがないです。

女子ゴルフ自体の関心が低いというのもありますし、ランキング下位のどちらかと言えば注目度の低い選手たちの話とはいえ、選手もメディアもそこまで実際の影響の少ないリシャッフルに関心がないんだと思います。

リシャッフル影響下の大会には全て出場可能、というのをさらに裏付けるために、2人目、レティシア・ベックも同様に見てみましょうか。

第一回リシャッフル前の試合に全て予選落ちして、CMEポイントを全く稼ぐことができず、もうリシャッフル突破ならずもならず、最低のパフォーマンスだったわけですけど、吉田選手同様にリシャッフル影響下の試合は、全て出場権が降りてきました。

172位から優先順位を上げられなかった第二回リシャッフル以降も、出場できました。逆にリシャッフル関係ない試合にはほぼ全て出場できませんでした。リシャッフルよりもフォーカスすべき点は吉田選手とほぼ同じなので繰り返しません。

でもここまでリシャッフル叩きしておいてあれなんですけども、見方を変えると、リシャッフルでCMEランク上位だとあとが楽なのも事実なんですよ。リシャッフル関係のないメジャーの試合にほぼ出られますし、好調をキープできれば秋のアジアンスイングもほぼ確実。

ただ、リシャッフル時にCMEランク80位突破してなくても悲観する必要は全くないということを言いたかったわけです。

これで昨年24年の話はおしまいです。

続いて25年ツアーカード保持日本人選手の出場可否状況をアップデートします。

→ LPGA日本人13選手はどの大会に出られるのか(後編)


本コラムはこの動画を書き起こしたものです